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合同  形も運動も鏡像関係の巻貝

 直接そこに行くことのできないところにある物体の位置をどうしたら測ることができるでしょうか?

 なにか、かたちの話とは別のことのように思えますが、かたちは空間的な位置の関係だと思えば決して無関係ではありません。

 ギリシアの哲学者タレス(625B.C.頃−547B.C.頃)は海上の船の位置を知るために、三角形の合同を利用して陸上で海岸から船までの距離を測定したと伝えられます。

 左図のように、陸地の2箇所の見張り場所A,Bから沖の船を見て、角度θ=∠CABと角度θ′=∠CBAとを決めます。そして、陸地にそれぞれの地点から同じ角度で線を引いていけば、ちょうどぶつかる地点C'が沖の船の位置に対応するのです。

 これは三角形の「合同」を利用したアイデアですね。

 1つの辺(上の場合は辺AB)とその両端の角度(上の場合はθとθ′)が決まれば三角形が一つに決まってしまうことを利用したものです。図1の三角形ABCと三角形ABC'はABを対称軸として反転すると、互いに全く同一な図形になるのです。

等長写像で移る図形は合同  2つの形が同一だ、というとき、最も厳しいのが「合同」です。「合同」はより広い概念である「同型」のひとつで、最も厳しいものといえます。

 「合同」の定義は次のようなものです。

「n次元ユークリッド空間Aⁿの2つの図形FとF′に対してf(F)=F′となるような等長写像fが存在するとき、FとF′は『合同』である。」

 等長写像とは距離を変えない写像のことで、Fの任意の2点p,qに対してpq間の距離とf(p),f(q)間の距離が等しく保たれる写像です。つまり、FとF′が「合同」とは「FとF′がぴったりと重なり合う」ということです。

図形を重ねあわせるためには、図形を平行移動(Translation)回転移動(Rotation)反転(対称移動)(Reflection)させて、図形の各部が完全に重なるかどうかをみればよい。

これらの操作は一般に「変換」と呼ばれます。ぴったり重ねることができるような変換の手順を見つけることができれば、2つの図形は合同といえます。

右では、図形Fを順に、

1. 位置pが重なるように平行移動

2. 位置qが重なるように点pを中心に回転

3. pqを通る軸のまわりに反転してF'に重ねた。

平行移動で点pを重ね合わせた点pを中心とした回転移動で点qを重ねた
反転移動で図形を重ねた
平行移動を反転の合成で実現

回転移動を反転の合成で実現

 小さな子供はよく、「寝返り」(体の向きを反転すること)を打ちながら広いベッドの上をあちこち移動して、とんでもない方向を向いてねていることがありますね。

 これと同様に、上の3つの変換のうち、平行移動と回転移動は、実は適当な対称移動の組み合わせ(合成)として実現できます。

 そうすると、2つの図形をぴったり重ねることのできる対称移動の合成さえみつかれば、2つの図形が合同であることを示せますね。


対称移動は鏡映(鏡像変換)とも呼ばれ、平行移動や回転移動とは異なる性格がある。2次元の図形を考えると、平行移動や回転移動は同じ2次元平面内での移動である。しかし、鏡映は図形を同じ面内で移動することによっては実現できない。人間の左右の手の平のように鏡像の関係にある形は、一つ高い次元の世界でしか重ね合わせることができない。
E. A. アボット(Abbott)の「多次元・平面国(原題 Flatland -A Romance of Many Dimensions)」(東京図書)という小説では、2次元平面の住人が3次元世界を旅するが、2次元の認識しかできないために不思議な体験をすることになる。2次元世界では、鏡像関係の形を持った"人種"は全く異なった人種である。
非対称の形態(円錐らせん)をもつ生物である巻貝は、貝殻のみならず本体も非対称な形態を持ち、生殖口のある側を内側にして巻く形になっている。らせんには右巻きと左巻きがありこれらは鏡像関係である。巻貝では同じ種でも遺伝的変異によって反対巻きの個体が出現する。しかし右巻きと左巻きでは体の形だけでなく、求愛・生殖行動も反転しており、互いに交尾することができない。同じ"種族"なのに、同じ次元の空間で活動・認識している限り、互いに互いを重ねあわすことができないのだ。
化合物にも同じ原子で構成されていながら、立体構造が互いに鏡像関係であるL-体とD-体というものがある。地球上の殆んどの生物はL-体のアミノ酸で作られている。例えばL-アラニンは体を作っているがD-アラニンは食べても体の中で使われることはない。3次元の生物にとってD-体のアミノ酸は、その形のおかげで「認識」できる相手にならないのだ。
[mirrorshells.bmp: 図8. 右巻きと左巻きの貝殻]